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公衆衛生と都市計画を学ぶためUCLAに留学中の和製家庭医のブログです

ジェンダーマイノリティー & Affordable Care Act (ACA/オバマケア) (week 5)

【COM-HLT 210】
Gender Identity, Sexual Orientation and Health
LGBTQとひとくくりにされがちだが、その中でもそれぞれに異なった課題がある。そこにさらに人種や経済状況がからんで、個別性の高いニーズが存在する。
LGBTQの健康格差を是正する上での課題はそもそも基になるデータが取られていないということ。また、人数が少なく有意なデータが取りにくい、ということ。特に小児・高齢者についてのデータは不足している。
また、ある傾向を人種で説明したり、それを支持する研究を行うことは人種差別を助長することになるかもしれない事には注意が必要。(例えば黒人女性にHIVが多い理由を、既婚の黒人男性が隠れて同性での性交渉を行っている(Down Low)からだという説明を支持しようとする研究は、黒人男性が野蛮で非常識だという偏見に基づいている、あるいは助長している。)
 
<Minority Stress Model by Meyer, 2003>
ストレスはランダムに起きるのではなく社会構造に応じて発生するもの。
LGBTQに向けられた偏見やスティグマは、そのpopulation特有のストレス要因をもたらす。
resillienceという言葉がよく使われるが、これには注意が必要。というのはresillienceは社会ではなく個人に責任を押し付ける口実になるから!anti-resillienceという立場も重要。
また、Copingはリソースが無いとできない!だから、Copingという時には個人ではなくpopulation, communityを対象にしないといけない。
 
<Three aspects of sexuality define sexual orientation>
興味を持つ性(attraction/desire)と実際の行動(behavior)は必ずしも一致しない!
A. Sexual behavior
B. Sexual attraction
C. Sexual identity (e.g., gay, lesbian bisexual, queer)
 
<LGBTQsの人に関わる上での臨床Tips>
性行動は性的アイデンティティーと常に一致するわけではない!(自らを同性愛者と言わないながらも時折同性の性交渉を行う人達がいる!)
コンドームを必ずつけているかを聞くのも大事(場面に応じて付けない人たちもいるから)
性交渉の時に飲酒をしたりしてないかを聞くのも大事(危険行動のリスクとつながる)
臨床においても、どの代名詞を使ってほしいかをルーチンで聞くのは大事!
LGBTQsであっても基本の質問は一緒。ただ特有のニーズがある事も認識しておく必要がある。
LGBTQsでは精神的問題も多く、スクリーニングしておくべきである事も要留意。
 
Mental Health
精神疾患はDALYの1/3を占めており、社会的インパクトが大きい
基本的に精神疾患の世界的な罹患状況は悪化してる(もちろん交絡因子として、診断がしっかりつくようになったり、治療を求めるようになったり、研究されるようになった、という因子はある)
一方で、精神疾患患者の半分以上が治療を受けていない。一つの理由が精神疾患に対する偏見。こういうのは、同じクリニック内でまとめて受診できれば偏見にさらされる心配をしなくて済む。だからもっとコミュニティーレベルで精神疾患へのアクセスを改善するのが大事(精神疾患は個人的な問題と思われがちだが)。精神疾患は個人的な問題ではなく、集団レベルの問題でもある。だから精神疾患は公衆衛生の問題。
 
精神疾患は社会情勢によってメンタルヘルスは大きく影響を受ける。
例えばベトナム戦争が終わるまではPTSD精神疾患として位置付けられていなかったが、一方でホモセクシュアリティは1974年まで精神疾患として位置付けられていた。
DSM-5の診断基準も委員が集まって話し合いで決める。だから精神疾患には社会的・政治的な因子が入ってる。
 
精神疾患は身体疾患に影響する。逆に身体疾患があると精神疾患のリスクが上がる。
 
メンタルヘルスにはネガティブな側面だけでなくポジティブな側面もあることを忘れないように!単に病気がない、というだけではない!
 
また、精神疾患はDimensional Modelで表されるように様々な他の要因も絡み合ったものである。
 
何をもって精神疾患とするか?
→機能低下しているかどうか。たとえストレスがあったり悲しくても、生活に支障をきたしていなければ大丈夫。別に普通に日常生活が送れていれば疾患とは言わない。
 
<Best Slide>
<Three aspects of sexuality define sexual orientation>

 

 
<Minority Stress Model by Meyer, 2003>



 

 
 
<Best Reading>
Makadon HJ. Ending LGBT invisibility in health care: The first step in ensuring equitable care. Cleveland Clinic Journal of Medicine. 2011 78(4): 220-224.
医療従事者がLGBTQのケアに関わるために必要なTipsがまとまっている
 

【PUB-HLT 200A】
<Epidemiology>
<Traditional Causal Criteria: 関連性が因果関係かどうかを判断するための9項目>
①Strength of association: 因果関係の強さ
②Temporal relationship - cause precedes effect: 当たり前が、原因は結果よりも先に起きるはず
③Dose-response relationship: 喫煙量と肺癌の発生率は直線的になる
④Replication of findings: 別のセッティングでやっても同じ結果が得られるか。メタアナリシスは、そうした研究たちをまとめたもの。
⑤Biologic plausibility: 基本的に人体で検証する前に動物実験で検証しないといけない(喫煙や有害物質などは、人体での問題が先に指摘されてから明らかになる事も多いが)
⑥Consideration of alternate explanations
⑦Cessation of exposure essentially performing an experiment
⑧Specificity
⑨Consistency with other knowledge
 
<因果関係の4つの種類>
①Necessary and sufficient: その疾患が起きるのにはその原因が絶対に必要、かつその原因があれば必ずその疾患が起きる、というもの。例:サルモネラ
②Necessary but not sufficient: 例:COVID-19とコロナウイルスの関係。COVID-19にかかるには最低限ウイルスに暴露されないといけないが、ワクチンや免疫状態に応じて実際に発症するかどうかは変わる
③Sufficient but not necessary:これが一番一般的。例:乳癌の発生要因はいくつかある。一番寄与しているのはinheritance of cancer gene(BRCA)。だけどそれ以外の原因で発症することもある。1つでもあれば発症するけど、それ例外の原因でも発症する。
④Neither sufficient nor necessary: 例:高脂肪食 単独で心疾患を引き起こす事はないし、高脂肪食を摂取してなくても心疾患は起こる
 
<因果関係を検討する上で注意すべき点>
  • Confounding(交絡因子)
  • Random Gene Changes:生活習慣だけでなく、ランダムな遺伝子要因も影響する
  • Other Factors:発症する人も単独の理由ではなく、様々な要素が影響する
 
<研究の種類>
①Ecologic Study
とにかく安い。でもそのコミュニティーの中の個人についてのデータは分からない。
②Cross-Sectional Study
リスクと疾患を同時に調べる(prevalenceについて調べる研究)
今の時点で病気がある人とそうじゃない人を集めて、過去の曝露歴を聴取する。覚えてない人もいるだろうしバイアスは当然ある
 
 
<Community Health Sciences>
ACAは子供のいない低所得層の成人に対しての門戸を開いただけでなく、扶養される子どもの年齢を上げたり、民間保険において健康状態によって加入拒否されることを禁止したり、民間保険を買うのに対して税控除を行ったり、保険に入らない個人や雇用者に罰金を設けたりした。
ACAは全体として加入率を上げたが、特に加入率の低いヒスパニックの加入率を大きく上げて、人種間の格差を(わずかに)減らした。それでもなお人種間の格差は残っている。また、アメリカの住民票が無い移民たちなどはACAの適応にはなっていない。
そもそもヘルスケアへのアクセス、というのは健康保険カバー率だけでは評価できない。医療機関への物理的な距離や、差別による心理的障壁や言語的な障壁もある。また、健康へのアクセス、に広げると、予防医療へのアクセスも含まれるし、医療機関で受ける差別も含まれる。例えば、LGBTQの人たちは様々な差別を経験しているが、特に人種的マイノリティーのLGBTQはさらに大きな差別を経験している。
 
<Health Policy Management>
アメリカの医療費は20年で3倍以上になり、全GDP内での割合も14→20%に上昇。
他国と比較する場合、イギリスやカナダのように一般財源で医療制度を維持するパターンもあれば、日本のように公的保険という形で維持する形もある。しかも、アメリカのように民間保険がメインの場合、それぞれの保険でカバーされるサービス範囲や医療機関の質は異なるので簡単には比較できない。また、アメリカのように移民が多くて市民権を持っていない人が多くいる場合には、カバー率の分母を何にするのかも大きな問題(そもそも分母に入れられていない人が多くいる)。
アメリカは「防ぎ得る死」の割合も最も高い。(銃の問題。銃規制の問題は公衆衛生の問題でもある。しかも基本的に若い人が死ぬのでより影響は大きい。)
アメリカの未保険加入率は10%台だが、他の先進国は1%前後。
 
アメリカの保険制度はとにかくややこしいのが問題。
大きくは、雇用関連制度(高齢者、身障者向けであるMedicareを含む)、貧困層・無保険者向け制度(Medicaid, SCHIPS)、退役軍人・家族向け制度、労災制度に分けられる。
Medicareは連邦政府が運営しているが、Medicaidは各州が運営している
MedicareもパートA〜Dまで分けられ、入院・外来・薬剤に分けられていて、それぞれ別々に加入するので極めて複雑。
ACA(オバマケア)は、Medicaid加入のための収入基準を緩和し、民間保険会社が加入を断れないようにした上で個人・雇用者に保険加入を義務付けている。
 
<BIOSTAT>
割付け方:ランダム化するか(ブロックランダム化、層別化)
盲検化するか(single or double blinding)
分析方法をどうするか(Intent-To-Treat, As Treated, Per-Protocol)
 
研究結果に影響を及ぼしうる患者の特性は推定できるものもあるけど未知のものもある。従ってなるべくサンプル数を大きくするのが大事。
 
ブロックランダム化:サンプルが予定人数に達しなくてもサンプル群間の差が最小限に抑えられるようにするため。ブロックを作ってブロック内で均等に割付けて、という事を繰り返す。
層別化:研究結果に影響を及ぼしうる因子については、その因子の中でも均等に割付けられるようにあらかじめ分けておく。ただ、ややこしいし、人数が少ないと、
盲検化:二重盲検がいい、と思うけど、それが物理的に不可能な事も多い。例えばCBTをインターネットでやるのと対面でやるのとどっちがいいのか、というのを比較する場合、患者も医者もどちらに割り当てられてるかを知らない、というわけにはいかない。
 
Intent-To-Treatはフォローできなかった人は除く(データが回収できなかったので除かざるをえない)けど、プロトコールを守ろうと守らなかろうと、最初の割り付けた群同士で比較する。
3つの分析法のうち、Per-Protocolが一番よさそうにも思うけど、一番いいのはIntent-To-Treat。まず第1にランダム化を一番反映しているから。Per-Protocolだと、プロトコールを守った人、という偏ったポピュレーションのデータになってしまい、ランダム化した意味が薄れてしまう。第2に、飲む側に割付けてた人の中には飲まない人も出てくるから効果はやや低く出るし、飲まない側に割り付けていた人の中にも飲む人が出て、少しいい結果になるので、飲む飲まないによる差が最も小さくなると言える。それでもなお効果が出るならばやはり効果があると言える。
 
<Best Slide>
授業で扱われたスライドではないけど、大阪大学の腎内のHPに研究の種類がわかりやすくまとまっていたので拝借(https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/clinicaljournalclub5.html

 

 

<Best Reading>
Buchmueller TJ, et al., 2016. Effect of the Affordable Care Act on Racial and Ethnic Disparities in Health Insurance Coverage. AJPH, 106(8):1416-1421. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4940635/
ACA(Obama Care)についてよくまとまっている