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公衆衛生と都市計画を学ぶためUCLAに留学中の和製家庭医のブログです

人種差別 加齢とライフコース & ACA(オバマケア)(week 6)

【COM-HLT210】
Race, Ethnicity, Racism, and Discrimination
<Dr. Camera Jonesの人種差別についての4つの寓話> https://youtu.be/GNhcY6fTyBM 
①ジャパニーズ・ランタンの話:私たちが見ている色は、私たちが見る光によるもの。これらの色のついた光は、真の個別性を歪め、覆い隠してしまう。
②ドアの話:片方に対してopenなものは、他の人に対してはclosedになる。自分たちを優遇する不公平のシステムに気づくのは難しい。外部にいる人は看板の両面性を強く意識する。
③庭師の話:3つのレベルのracism(internalized, personally-mediated, institutionalized)
(institutionalized:制度化された人種差別)
社会の商品、サービス、機会へのアクセスが、"人種 "によって異なること
(personally-mediated:個人を媒介とした人種差別)
他人の能力、動機、意図について、"人種 "によって異なる仮定をすること
(internalized:内面化された人種差別)
自分たちの能力や本質的な価値について否定的なメッセージを、スティグマを持つ「人種」が受け入れること。
 
※structural racismとinstitutional racismは似ているようで違う
structural racismとは、「社会が(人種)差別を助長する方法の総体で、相互に補強し合う(不公平な)システム(住宅、教育、雇用、収入、給付、信用、メディア、医療、刑事司法など)により、今度は差別的信念、価値、資源の分配を強化する」もので、歴史、文化、相互に関連した制度に反映されている
institutional racismとは、特に人種的に不利な「国家または非国家機関の内部および間で行われる差別的な政策と慣行」のこと
 
※structural racismの2つ(3つ)の健康に及ぼす経路
居住環境の隔離(マクロからミクロに移行している)、適切な医療へのアクセス、(差別的な収監)
 
動く歩道の話:放っておいたら何もしなくてもそのままracismの方に流されていってしまう。ほとんどのracismは無意識に行われる。だから、それに逆らおうと思ったら、流れに逆らって歩いていかないといけない。途中で誰かにぶつかるかもしれないけど、一部の人達は気付いて一緒に逆走してくれるかもしれない。そしてどこかでその動く歩道のレバーを止める事ができるかもしれない。
 
<人種差別とは何か?>
→容姿の社会的解釈(これを私たちは「人種」と呼んでいる)に基づき、機会を構造化し、価値を割り当てるシステム。
- ある個人やコミュニティに不当な不利益を与える
- 他の個人や共同体を不当に利する
- 人的資源の浪費により、社会全体の力を奪う
 
<人種差別racismと人種raceは異なる>
人種に起因すると考えがちな特性は人種差別の産物である、という事がよくある。性別、SES、ジェやんだについて考えるのと同様に、人種は社会的階層化のシステムと考えるべき。人種と違って人種差別はよりシステム化されている。政策から対人関係までさまざまなレベルに影響している。人種差別とは、「人種」と呼ぶカテゴリーに基づいて、機会を構造化するシステム。racismによってraceは格差を生むことになる。
 
※人種とSESは違う!SESは、人種が健康格差につながる経路の一部でしかない。すべての経済階級において人種間の格差がみられる(個人的な意見としては、SESに含まれていない要素が残っているだけのような気も。。)
 
<Discriminationとは>人種を理由に個人が不公平に扱われること
differential treatmentとdisparate impactの2種類がある
differential treatment (差別的取り扱い): 人種を理由に個人が不公平に扱われること
disparate impact (格差のある影響): ある一定の規則や手続きに従って個人が平等に扱われるにもかかわらず、後者がある集団の構成員に他の集団よりも有利になるような形で構築されている場合に発生する
 
<raceとethnicityの違い>
  • raceとは:socially-constructed status based upon phenotype that is often (mistakenly) treated as biological(見た目に由来)人種とは、表現型に基づき社会的に構築された地位であり、しばしば生物学的なものとして誤って扱われる
  • ethnicityとは:salience attached to perceived or actual geographic birthplace and national heritage(場所に由来)民族とは、地理的な生誕地や民族的な遺産を認識または実現するために付随する重要性のこと
  • nativity: status linked to being born in or outside of the US, related to incorporation, assimilation, and acculturation process(アメリカで生まれたかどうか)ネイティビティとは、米国内外で生まれたことに関連するステータスで、法人化、同化、文化変容の過程に関連する。

 

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<もともとkinshipの分類だったraceがなぜ17世紀〜18世紀に変化したのか?>
2つの要素
②ヨーロッパにおける啓蒙主義と呼ばれる理論化
啓蒙主義の中で、科学界では自然界を分類し、階層化する流れがあった。その方法の中に人種もあてはめられ、身体的な特徴を社会的な構造物ではなく自然の摂理であると言おうとした。
 
人種、というのが生物学的な差異を反映した分類であり、人種ごとに遺伝的同質性がある、と考えがち。見た目が違うから、生物学的にも違い、特定の人種は特定の身体的・精神的な特徴を共有している、と考えがち。しかし、人種ごとにある傾向のある疾患は、人種カテゴリーの生物学的な特徴を反映したものではなく、単純に家族を介して遺伝しており、人々は同じ人種の人と結婚しやすいから、人種的な類似性があるにすぎない事が多い。人種グループ間よりも人種グループ内の方が、多くの遺伝的変異がある。つまり、人種とは、遺伝的なグループ分けではなく、社会的に決定されたものである。
 
※人種・民族の健康格差の説明:個人レベルの特性 と 環境的な要素の両方を組み合わせる事が重要
 
【Key theories of race & health】
<①Critical Race Theory> 
CRTの目的は人種に関する自分の考え方を批判的に吟味する事
4つの重要な要素がある
①人種関係の現代的パターン contemporary pattern of racial relations:自分の人種的な位置付けが自分の役割・特権にどのように影響しているか批判的に検討する
②知識生産 knowledge production:人種や人種差別がどのように科学的知識を形成しているか問う
③概念化・測定 conceptualization & measurement:どのように健康問題を概念化して測定するかにおいて、人種の影響を批判的に検討する
④行動 action:科学的知識を用いてどのように行動するか、誰の声を中心に据えるか批判的に検討する
 
<②Fundamental Cause Theory>
人種差別は根本原因か?
SESにおける人種間の違い & 人種間の違いが引き起こすSESの違い
 
システムとしての人種差別は、SES指標(学歴、収入、職業)の人種間格差と
- SES指標(教育、収入、職業)における人種間格差と、
- SES指標から得られる資源における人種間格差
の両方を形成している
 
<③Weathering Hypothesis> 風化仮説
黒人は、「風化」と呼ばれる健康状態の悪化を早期に経験する
- 社会的・経済的な逆境や政治的疎外を繰り返し経験することによる累積的な影響の結果として
- 政治的疎外の結果として
- 人種差別や人種意識の強い社会で生活することのストレスの結果として
 
<④Health Paradoxes> 健康のパラドックス
収入や教育レベルは悪いが、死亡率や出生状態などはよい結果が得られている
  • Barrio Effect:バリオ効果
  • Black-White Mental Health Paradox:白人と黒人のメンタルヘルスのパラドクス
白人よりも黒人の方が精神疾患の割合が少ないが、精神的ストレスは大きい
 
 
 
 
Aging and the life course: Connections at the individual-level and population-level
なぜlife-course persepectiveが重要なのか?
→ある一点での状態を見たのでは説明できない事がある(なぜその時点での違いが生じたのか。それまでの違いの積み重ねの結果である事がある)



 

 

 


<critical period vs sensitive period>
①critical period
その時期に暴露すると不可逆的な影響を与える時期
2つのパターン
- そもそも最初のタイミングで影響が出てしまう(死亡など)
- 若い時は代償できるので影響が出ないが、加齢に伴って代償できなくなったタイミングで影響が出てくる(暴露してもすぐに影響が出ないことがある)
②sensitive periods:可逆的
 
<critical period vs accumulation of risk>
①critical period
-  後天的な危険因子がないこと
-  後世の影響修飾因子がある場合
②accumulation of risk
-  独立した非相関の傷害がある場合 - 相関のある傷害がある場合
クラスター化・リスクの集積(同じ時期)
-  リスクの連鎖 (加速度効果やトリガー効果を伴う)
 
  • Priming: 他の危険因子(幼少期の過体重)が起こらない限り、低出生体重は心臓病につながらないかもしれない-
  • Risk clustering: 幼少期の社会階層など
  • Chain of risk: ある有害事象が別の有害事象につながる
  • アロスタティック負荷: 長期的な生理学的ストレスにより蓄積された悪影響や消耗状態を表す
  • 倹約型表現型仮説(Thrifty phenotype hypothesis): 子宮内の栄養状態が悪いと、胎児は資源の乏しい環境に適応する(体格が小さくなる、代謝率が下がる)。しかし、「倹約的表現型」を持って生まれ、豊かな社会で生活すると、豊富な余分なカロリーに体がうまく対応できず、代謝異常(肥満、II型糖尿病)のリスクが高まる可能性がある。
  • 胎児プログラミング仮説: 胎内で栄養不足の状態が続くと、胎児は環境の変化に適応し、エネルギーバランスを維持するために「成長」のために設計されたエネルギーを使うようになり、その結果、器官の発達、細胞の種類と数、代謝活性、ホルモン刺激に対する組織の感受性に永久的な変化が生じる
 
世代を超えるメカニズムは遺伝子的なものだけでなく、ストレスホルモンなどを通しても起こる

 

 

 
<population levelで考えるべき事>
寿命延伸ではなく、健康寿命の延伸を目標に変更すべき
健康寿命は、有病率が低下したときに延びるが、最も効果的なのは発症年齢を引き上げること
 
<Best Slide>上記文中
 
<Best Reading>
どうやってraceが作られたか、しかも様々な要素に影響されて作られたかが分かる
 
Structural Racismについてとてもわかりやるくまとまっている
 
Ben-Schlomo Y and Kuh D. A life course approach to chronic disease epidemiology.
図表もとてもインパクトがある論文。様々な暴露が、様々な時間軸で影響し続ける。それゆえに研究が難しい。
 
 
【PUB-HLT200】
【Health Policy Management】
<ACA(オバマケア)に先立つ3つの重要な出来事>
  • 1970年代の「管理された競争」に基づいた国民医療制度の提案
  • 1993年のクリントンの「管理された競争」に基づいた医療制度改革の失敗
  • 2006年のマサチューセッツにおいて、低・中所得の個人・家族が規制された市場で民間保険に加入するための補助金を含む、「管理された競争」に基づいた医療制度改革→これが後のACAにつながる
 
<ACAの特徴>
(制度的特徴)
  • もともとMedicaidは収入条件だけでなく、医療上の必要性、あるいは子どもがいる必要があったが、収入以外の条件が撤廃されて収入条件だけでMedicaidが使えるようになった
  • また、収入が139%〜400%だったら民間保険をmarkerplaceで買う事で税額控除を受けられることに
  • 小規模な雇用主も税額控除を受けられて健康保険料が補助される
  • 一方で、保険に加入しないと、個人と雇用主が税金で罰せられるようにもなった
  • 26歳までは親の保険に加入できるようにもした
  • 保険会社は、健康上の問題を理由に保険加入を断れなくもなった
 
(効果)
2016年までのカバー率向上は、低所得者、有色人種、成人の間で最も大きく、特にメディケイド拡大州において顕著
外来患者サービスのアクセスと利用が改善
残りの無保険者のうち、半数以上はメディケイドまたはマーケットプレイス補助金付き保険に加入する資格があるが、約15%は移民のステータスまたは住んでいる州がメディケイドの拡大がないために資格がなく、残りは雇用主からのオファーがあるか、所得によりマーケットプレイス補助金の対象外である
 
※ACA導入の最初の数年間を通じて影響を及ぼした3つの分野
  • 保険加入率
  • 医療へのアクセス
  • 保険未加入者への経済的影響
 
(課題)
  • しかし2017年にトランプ政権になって、予算が削られて、普及活動費などが削られた。同時にはじめて保険未加入率が再上昇した。トランプ政権は未加入に対する罰金も無くした。それによって、若年の健康な加入者が減りリスクの高い人の割合が増えて保険費用の上昇を招いている。
  • 費用が依然として未加入の大きな理由。移民も加入できていない。
  • 人種・民族的マイノリティは、全人口に占める割合に比べ、引き続き保険未加入者の割合が高い
  • 未保険加入者は健康リスクが高い(健診や定期フォローに行かない、発症しても受診を控えるなどして重症化しやすい)
 
(現状で言えること)
  • 入院やその他の長期的な健康アウトカムに変化をもたらすエビデンスはない
  • コスト削減に関するエビデンスはない
 
<Kingdon’s Model for Agenda Setting>
政治的な潮流、課題意識の潮流、政策的な潮流の3つが重なった時に、政策の窓が開く

 

 

 
<管理された競争:Enthoven model>
①義務づけられた供給:標準的な福利厚生、コミュニティ評価、既往症の除外なし、生涯保障の制限なし
②強制的な需要:誰もが保険に加入しなければならない、低・中所得者向けの補助金
 
 
【Environmental Health Sciences】 ACAがSDH対して与えた影響とは?
議会が持つ課税権と資金配分権("power of the purse”)を利用した介入
- 保険プランに予防サービスをカバーすることを義務付けた
- 医療制度に、治療だけでなく、人々の健康をサポートするための財政的インセンティブを与えた
- 非営利病院が地域貢献活動をするように義務付けた
 
従来:"チャリティー・ケア”:医療機関は、この公共サービスに対して非営利の非課税資格を与えられている。一方で、SDHへの病院の支出は、他の地域社会への貢献や、一般的な病院の支出に比べると、非常に小さかった。医療機関は決まりきったアウトリーチのみで、効果的な地域介入を行ってこなかった。
ACA後:国税庁が病院が3年ごとに地域医療ニーズ評価を実施するようになった。病院は、自分たちがサービスを提供する人々の主な健康上のニーズを特定することになっている。また、州、地方、部族のうち少なくとも1つの保健所と協力することが義務付けられています。
ただ、CHNAは行政レベルで対応しないといけない内容(歩道の整備など)には対応できない、という課題も
 
【Epidemiology】
ポイント①:specificityは古いcausation criteriaには入ってるが、今は入ってない!
というのは、以前は特定の原因によって発生する疾患があると考えられていたが、今はそういうものは存在せず、あらゆる疾患が複数の原因によって起きていると考えられているため。従って、specificityによってcausationの関係性を高めることも下げることもできない。Causationを検討するためには他の項目を使わないといけない。
一方で、Biological GradientやPlausibilityは因果関係を検討する上では使いやすい項目。例えばPlausiblityについてh、研究を行う際には、必ずその背景を調べる必要があるので、先行研究に基づいて妥当性のある仮説を立てる必要があります。
 
ポイント②:Ecological studyとcross-sectional studyの違いは、個人レベルのデータがあるか、集団レベルのデータしかないか、だけ。Cross-sectional studyでは個人レベルで誰が暴露して誰が暴露していないかのデータがある。
 
ポイント③:Ecological studyとCross-sectional studyの長所・短所について
長所:ともに安くて早い、という点(最近ecological studyを見ないのは、近年膨大なデータベースが存在するから)
短所:
- ecological study: confounderをコントロールできない(Ecological Fallacy:集団レベルで言えることが、個人レベルでは当てはまらない現象の事)
ecological studyはaggregated dataなので、交絡因子がコントロールできない。だからecological studyをもって因果関係を語ることはできない。
- cross sectional study: temporalityが分からない
一方、cross-sectional studyの場合はecological studyで問題になるconfoundersはコントロールできるかもしれない一方、同じタイミングでデータを集めているので、temporalityを使うことができず、どちらが原因でどちらが結果か分からない、という欠点がある。
 
【Biostatistics】 推定
  • 「標本分散s2はnではなくn-1で割って導く!」という点に注意
  • t分布における自由度dはnではなくn-1である点に注意
  • t分布は、nが十分に大きくなくて中心極限定理が適応できずxバーが正規分布していると仮定できない時に使う
  • 信頼区間の解釈について:μっていうのは固定されたものなはずだから、μに対して「●%の確率で入る」という言い方をするのは本来おかしい。なので、「何回もサンプル採取を施行したらこの信頼区間の範囲は●●%の確率でμを含む」という表現が正しい
  • 「2群の平均の差」の95%信頼区間が0を含むとは、「2群の平均の差」が0であっても95%の信頼水準で統計的にはおかしくない、ということだから、それは、5%の有意水準では差があるとは言えない状況になっている、ということです。

 

<Best Slide>上記
<Best Reading>
- Kominski GF, 2014. The Patient Protection and Affordable Care Act of 2010.
ACAについての総説:ACAに至るまでの歴史的経緯(米国保険業界におけるマイルストーン)、ACAの主な特徴、ACAが各業界に与える可能性のある影響が書かれている