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公衆衛生と都市計画を学ぶためUCLAに留学中の和製家庭医のブログです

行動変容の理論とモデル & ヒ素中毒 & CBPR(week 7)

【COM-HLT210】

<授業ノート>

Theories and Models of Health Behavior

 

※ModelとTheoryの違いは?

- Theory:事象や状況を説明し予測するために、変数間の関係の体系的な見方を示す、相互に関連する一連の概念

- Model:複数のtheoryから取り入れたアイデアと概念の組み合わせであり、特定の環境における特定の問題に適用される

 

<行動変容の理論>

大きく個人レベル(intrapersonal)、個人間レベル(interpersonal)、コミュニティーレベルの3つに分かれる

 

<個人レベル>

①Health Belief Model 認知が人の行動を決める上で重要という考え方

「罹患性susceptibility/重大性severity/有益性benefit/障害性barrier」の4つの認知

2つのS(Severity/Susceptibility)がPerceived threat(どの程度の脅威かに影響する)

2つのB(Barrier/Benefit)がDetermines response(行動に影響する)

最終的な行動には、Cues to action(行動のきっかけ)とSelf-Efficacy(自己効力感)が影響するが、これらは人によって異なる

また、いずれの要素も、修飾因子(年齢、性別、SES、人間関係、知識などの影響を受ける)

 

②変化のステージモデル (Trans-theoretical Model: TTM): 5つのステージ

TTMは他の行動変容のモデルと比べて、行動変容する気のの無い人も含んでいる点において、より多くの人を対象にできる、という強みがある。有効性が高い介入よりも、多くの参加者を集められる介入の方がpopulationへの介入においては最終的に大きな影響を及ぼしうる(ただ、precontemplation stageは少なくとも問題を認識していないといけない。だからトランス脂肪酸問題のようにその問題性を知らない人が多い場合には、このモデルの範囲外になる。また、IPVや人種差別はprecontemplationに持っていくこと自体が難しい。パラダイム・シフトをしないといけない。)

また、個人レベルだけでなくコミュニティーレベルでも適応できる(クラスターランダム化試験etc)

 

※Stages of Change以外の要素

  • Process of change (Potential change strategies): 10のタイプ
  • Decisional Balance:メリットとデメリットのバランスの各変化ステージにおける推移は、不健康な行動を中止する場合と、健康な行動を継続する場合では異なる(健康な行動を継続する場合にはメリットが高いまま続かないといけない)
  • Temptation scales: temptationとself-efficacyの2つの要素から成る。temptationはステージが進むにつれて低下する一方で、self-efficacyは上昇する。

 

③計画的行動理論 (Theory of Planned Behavior): 「行動意図(behavioral intention)」が行動の最も重要な決定要因だ、という考え方。この「行動意図」は、「態度(attitude toward behavior)」と「主観的規範(subjective norm)」によって決まる、というのが合理的行動理論。ここに「行動コントロール感(perceived behavioral control)」を含むのが計画的行動理論。

 

④予防行動採用プロセスモデル (Precaution Adoption Process Model: PAPM): 7つのステージ

※TTMと似ているが、TTMには無い、問題を認知する前の段階(stage1と2)が含まれている点で異なる

 

<個人間レベル>

  • 社会的認知理論(Social Cognitive Theory): 個人的要因(person)、環境要因(environment)、人間行動(behavior)が相互に影響を及ぼす(Reciprocal Determinism)という考え方

 

<コミュニティーレベル>

問題の特定や説明にフォーカスした個人レベルや個人間レベルについての理論とは毛並みが異なる

イノベーション普及理論(Diffusion of Innovation)etc

 

※マスメディアやインターネットを使った行動変容のためのコミュニケーションについて

個人レベル、社会ネットワークレベル、コミュニティーレベルなど、複数のレベルで横断的に介入する事が効果的で、個人レベルに絞った介入は失敗に終わりがち

世代によってインターネットの利用の仕方が違う(どういうサイトを使うか、どのように使うか、情報の集め方)

効果の評価方法が難しい(決まった評価方法が確立していない、そもそも効果判定が難しい(インターネットの匿名性やランダム化の難しさ))

ただ、行動変容のテクニックを利用する事は有用

 

Life Course Perspective on Health

  • period effect: ある時代に生きていたことによる影響(すべての世代が影響を受ける)
  • cohort effect: ある時代に生まれた同世代の特徴(ある世代は、同じタイミングで同じ出来事を経験している)

 

<Ecological Model (Ecological Perspective)>

健康行動には、対人関係、組織、地域、公共政策など、複数のレベルの要因が影響する

どんな疾患(問題)も1つのレベル・因子の介入だけでは解決しない一方、複数のレベルで作用する介入は、行動を変えるのに最も効果的

そしてこれは、時間軸の要素も念頭に入れておく事が重要(Lifecourse Perspective/Theoryと同様、人生のどのタイミングでどういった暴露を受けるか、という事も関わる)



 

 

<Best Slide>

上記のLife-course perspectiveとEcological perspectiveが組み合わさった図

 

<Best Reading>ともに行動変容の理論についてよくまとまっている

Public Health 101: Improving Community Health

Theory at a glance (National Cancer Institute)(日本語版あり)

 

<コメント>

 

 

 

【PUB-HLT200】バングラデシュにおけるヒ素汚染問題

バングラデシュでは、水系感染症汚染が問題となり、UNICEF主導で簡易的な井戸の整備が行われた。これによって水系感染症の数は劇的に減り、大規模な公衆衛生的な介入の効果を示した例となったが、十数年後、地下水のヒ素汚染が明らかとなった。公衆衛生的な介入が新たな公衆衛生上の問題を発生させた事例

 

<授業ノート>

<Environmental Health Sciences>

ヒ素について

ヒ素が毒性が高いのは、リンと似ているためそれに置き換わりやすい事や、酵素の働きを阻害する事が多いため

水からの暴露が一番の問題となる(土壌を経由して食物から摂取することもあるが、ヒ素は無機物の形態である方が有毒性が高く、食物に入ると有機物となるので、有毒性は下がる。また、以前使われていたCCAという防腐剤が注入された木材を燃やす事で拡散される経気道の暴露も問題となりうる。)

 

ヒ素は意外にも速やかに体内から排泄されるため(半減期10時間)、急性の暴露はあまり問題にならない(一度少量に摂取したからといって、急性・慢性いずれの問題も生じない)問題となるのは慢性暴露。

慢性暴露すると、皮膚病変や、末梢神経障害、心血管疾患、皮膚・肺・膀胱などの悪性腫瘍の原因に。胎児期に暴露した場合にも問題は発生する。

 

米国でもヒ素汚染は申告な問題

水質を規制する法律(SDWA: Safe Drinking Water Act)が存在するものの、規制違反を取り締まる内容ではないため、問題が放置されがち

水質汚染は、水道システムが整備されておらず地下水に頼らざるをえない地域で申告で、そうした地域は基本的に有色人種や貧困層が多い

従って、そうした人々がヒ素に暴露される状態が続いている

 

<Community Health Sciences>

<CBPR>

CBPR(Community Based Participatory Research)はparticipation, research, actionの3つの要素から成る

CBPRは量的か質的か、とは関係なく、方法論というよりも研究者の態度に関する枠組み

テーマはコミュニティーから発生しないといけない。外部者から持ち込まれた場合には、調整役の人を通して、本当にそのコミュニティーが求めているものなのかを吟味しないといけない

介入がコミュニティーの分断を深めるリスクにも注意が必要

誰がそのコミュニティーを代表しているのか、という点にも注意が必要(本当にそのコミュニティーリーダーが他の人達の意見を代表できているか)

人によってコミュニティーの捉え方は全然違う

外部者は、自らの潜在的な優位性(人種や資金面)について批判的でないといけない

コミュニティーが結果を公表したくない、と言った場合には、たとえ研究者としては発表しなくてもコミュニティーの意向を尊重すべき

得られた研究結果はコミュニティーの利益につなげる必要がある(研究者は、データを取ったら満足だけど、コミュニティーは健康になりたい。だからそれを実現するにはinterventionも必要)

CBPRは、学者とコミュニティーのちから関係を平等にする。それは健康格差の是正にもつながる

コミュニティーをリスペクトする上では、cultural humility of academics(研究者の文化的な謙虚さ)が重要

 

<PRECEDE-PROCEED model>

9段階で前半は課題についての診断、後半は介入評価(最後(結果)から始める(phase1とphase9は同じところ。HOWを問う前にWHYを問う))

特徴としては、「行動、環境、社会的要因のすべてが重要」と考えており、「評価」と「継続性」を重視している点

 

<Best Reading>

Minkler M. Ethical challenges for the "outside" researcher in community-based participatory research

CBPRを行う上での倫理的な注意点がよくまとまっている